改正電気通信事業法のパブリックコメントから見る携帯市場の現状と未来

電気通信事業法の改正とは

日々スマホや携帯電話を利用している人にとっては料金というものはいろいろと悩みの種の一つではある。 そういった人たちに大きな影響を与えようとしている法律、電気通信事業法の改正が行われた。 この改正のポイントは、世間で言われているところのいわゆる3つある。
  • 携帯電話の通信料金プランと端末料金の完全分離
  • 端末割引の上限値を原則的に2万円にすること
  • 違約金の額を1000円とすること
政府の目的は、MVOに大してある程度制限をかけることによって大手3社の寡占化に歯止めをかけ、新参MVOの楽天モバイルやMVNOの競争力を高め、そしてその結果により端末代金や通信料金の抑止を図ろうとしている。 とは言いつつも、上の3点を見ると、パッと見では消費者にとって得することはそんなに多くはない。
以下は、筆者が考える消費者の目線で見たメリット・デメリットである。
  • 通信料金と端末料金の分離
    • 通信料金プランと端末料金が重なっていたために携帯キャリアはお得なプランを出せていた。今後は今までの規模では出せなくなる。つまり、消費者にとってお得な機会が減ってしまうかもしれない。
    • 一方、長期に利用している利用者は今までその恩恵を受けていなかった。キャリアは長期利用者を優遇するプランやキャンペーンを出すかもしれない。
  • 端末割引の上限値
    • 上限が2万円となった。上限が設けられてしまうということは、これ以上のお得な割引はありえず、高額な端末は買いにくくなる。
    • もともと安価な端末はその上限値でも問題ない。格安スマホのラインナップが増えるかもしれない。
  • 違約金の1000円上限
    • 違約金の額が1000円に下がるということは消費者にとって契約の解除をハードルを下げるものだ。消費者にとっては他のキャリアに移りやすくなるということだ。
    • 一方で、一部のキャリアホッパーのような人が増えて、結果的に通信料金プランに転嫁される可能性がある。
もちろん事業者から見たメリットデメリットもあるし、消費者と一言で言っても短期でいろんな端末を買ったりする消費者や長期でずっと同じ端末を使い続ける消費者もいるので一概に、この法改正がいいものかどうかは判断が難しい。

パブリックコメントから見たこの法律の立場

そんな中、8月23日にこの改正法に伴い寄せられた同法施行規則の改正案の整備に関するパブリックコメントの答申が発表された。
電気通信事業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令等の整備等に対する意見募集の結果及び情報通信行政・郵政行政審議会からの答申
注目すべきはそのパブリックコメントを出した企業のリストである。
上記ページ別紙2
意見提出者: 1 関東弁護士会連合会 2 株式会社インターネットイニシアティブ 3 一般社団法人テレコムサービス協会 4 株式会社オプテージ 5 楽天モバイル株式会社 6 一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会移動通信委員会 7 クアルコムジャパン合同会社 8 Apple Inc。 9 株式会社NTTドコモ 10 一般社団法人全国携帯電話販売代理店協会 11 公益社団法人全国消費生活相談員協会 12 在日米国商工会議所 13 KDDI株式会社 14 ソフトバンク株式会社 - 個人(53件)
三大キャリアはもちろんのことMVOとして参入する楽天モバイルやMVNOの先駆けでもあるインターネットイニシアチブなど、さらにはアップルや在日米国商工会議所も意見を出している。 これらを筆者の主観的でありながら、肯定的な意見を出しているか否定的な意見を出しているかを分けてみた。

肯定的

1 関東弁護士会連合会 2 株式会社インターネットイニシアティブ 3 一般社団法人テレコムサービス協会 4 株式会社オプテージ 5 楽天モバイル株式会社 11 公益社団法人全国消費生活相談員協会

中立的・部分的賛成

7 クアルコムジャパン合同会社(賛同するものの5Gへの影響懸念を強く出している) 9 株式会社NTTドコモ(原則賛同。ただ、「MVNOへの制度適用」や「継続利用割引は不当な期間拘束ではないため、制限すべきではない、又は過剰な規制とならないようにすべき」など結構物申しているので、言葉通りの「賛同」ではない『含み』を感じました) 10 一般社団法人全国携帯電話販売代理店協会(在庫端末の特例に関する現行案は修正すべき) 13 KDDI株式会社(既往契約の特例規定の明確化が必要、5Gへの影響憂慮) 14 ソフトバンク株式会社(否定はしないものの山程物申している。量的には多分一番多い)

否定的

6 一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会移動通信委員会 8 Apple Inc。 12 在日米国商工会議所
肯定的と言える意見者はMVNOや新規参入する楽天モバイルという今回の改正法の恩恵を受ける最大の受益者が目立つ。また、消費者の視点に立った立場の団体である。前者は割と理解できるもの、後者に関しては割と楽観的に見ている点がありどちらかといえば規制強化派と言っていいかもしれない。
中立的部分的賛成としたのは、大手3キャリア。後は、端末の販売代理店や5Gに関する懸念を持っている会社だった。この辺りでよく見られた意見はやはり今後の事業の展開として市場が小さくなってしまうのではないか、ひいては直近の新しい事業である5Gに影響を与えるのではないかといったところを懸念されていた。 三大キャリアに関しては渋々といった感じでしかし黙っているわけにもいかないので一言物申すとはそういった感じの意見が目立っていた。根拠あるもの以外は軒並み門前払いといった答申となっていたが。。。。
否定的な意見者は、とりわけ注目したいのはやはりAppleである。 双方ともに、自由な競争が行われなくなることを危惧している意見を出している。最もAppleに関して言えば日本という市場で最大限にキャリアを利用して利用者を確保してきたスマホ端末会社とも言えるだろう。なにせAndroidの方がシェアが大きい国が多い中で日本はiPhoneのシェアの方が1位という異様な国でもある。考えてみれば、iPhoneは軒並み10万円以上するような端末しか出していないわけで、通常そういった高額な端末に手を出せるのは所得に余裕のある人だったり、アップルのファンだったりする。であるにもかかわらずそうでない人、たとえば小中学生でさえもiPhoneが使えたりするのはプランの割引が大きく効いてあるからだ。今までの通信契約形態の最大の受益者であり、今回一番影響を受ける携帯端末会社はアップルであると言わざるを得ないわけである。 今回の改正法案をアップル潰し法案と揶揄しているメディアもあるほどであり、事実上そのとおりともいえる。
なお、Appleの意見の総論は以下の通りだ。明確に反対の意思を出している団体は(個人を除いて)Appleだけである。
Appleは、世界で最も優れた製品を作り出し、自分たちが生まれてきた世界をさらに良いものとして次世代へ残すことに邁進しています。(中略)健全な競争がある市場では、さまざまな選択肢があることが重要です。残念なことに、この度の総務省令案のいくつかの条文は競争の抑制につながり、日本のお客様に対しさらに高い価格で今より少ない選択肢という状況をもたらすものであると考えています。

今回の法施行で何か起きるか

総務省のプランは正義か。はたまた悪魔が笑うか。

さて、このパブリックコメントの結果で変わったことがあるかといえば63件の意見の内、同様のものをまとめて46件の意見が出されていたが、実際にそれが受け入れられたのは3件のみであった。
つまり総務省は軒並み特に対応しないという姿勢を決め込んでいるわけであった。それが是か非かは一旦ともかくとして結局のところほぼほぼ原案の施行規則となるわけであり、つまり冒頭の三つのことはほぼそのままに行われるわけだ。
総務省は、これで「携帯電話料金の抑止」ができる、と考えている。
本当にそうだろうか?
これから三大キャリアはまず新しいプランを出して端末代金と通信料金のプランの分離化を行うだろう。これにより、消費者は今の契約を得をするのかあるいは損をするのかそれを考えなければならない。そして場合によっては、別のキャリア、新しい楽天モバイル、あるいはMVNOキャリアへの乗り換えを検討することが必要である。
裏を返すと、見直さなければ現状の契約は変わらない。これは、法律が遡及しない原則がある以上、そうとしか言いようがない。
要するに保険の見直しと同じことだ。消費者が賢く立ち回らなければ、料金の抑止は起きない。ただ、こういった見直しをする消費者は一体どれだけいるんだろうか?
そして、「賢い利用者」は契約の変更がしやすくなったわけで、お得なプランを歩き回るだろう。キャリアホッパーが現れる土壌が作られた。
さらに、「もっと賢い利用者」は、総務省のはるか斜め上をゆく事を考えるかもしれない。何にせよ今回の法改正で犯罪を企む経済的垣根は下げられたといって過言でない。

あなたやあなたの親類はキャリアを乗り換えるか?

話を戻して、家族が一緒に契約しているとか面倒くさいとかそういったわけであまり流動的にはならないだろうか。
賛成の立場にある楽天モバイルや既存のMVNOキャリアが大々的に広告や宣伝をしてということを行えばその流動性が高くなるかもしれない。
例えばQR決済のPayPayのように1億円キャンペーンを行って大規模に顧客を獲得したようなことができるかもしれない。ただMVNO自体はそんなに体力はあるわけではないので、できるとしたら楽天モバイルぐらいだ。もっとも、楽天モバイルは総務省から何度も行政指導をくらっている状態であるからどこまで可能化は不透明だ。

高額な端末は買いにくくなる - iPhone潰し法か?

一方で既存の三大キャリアは今後新機種に対して大幅な割引を行うことができなくなる。
特にiPhoneはそれに大きく影響を受けるだろう。今までiPhoneだったユーザーも新しく買い換える際に10万単位の費用が必要だった。ただ、今まではプランの恩恵で払えていた人たちも多かった。これからは、その恩恵に預かれなくなる。彼らの契約の更新のタイミングで安い端末に移っていくかもしれない。
それを見通しているからこそのAppleの反対意見である。しかし、総務省はほぼスルーした。今後、Appleは日本市場の見直しに入るだろう。
そして、大きな目線で考えれば、携帯電話の市場規模は軒並み小さくなっていくだろう。

あなたはお得なプランを考えられるか

消費者は、通信料金のプランとは別に端末料金を考えて自分で携帯料金の支払いを考えなければならない。結局のところ、携帯について詳しくない人や高齢者だったりすると、販売店のセールスによって結果的にあまり得のないプランを結ばされるかもしれない。
消費者保護のための法律ではあるものの、消費者が賢く立ち回らないと結局のところ損をするようなことになる。 今後、スマホの見直しを行う場合にはより多くの情報を収集したり、スマホに詳しい人に話を聞いたりして、賢く立ち回る必要性があるだろう。

コメント

このブログの人気の投稿

リモートワークをLogicoolのマウスとキーボードで複数PC切り替えて優勝した

VBAでのInterfaceやキャスト

SUPERHOTがいかにSUPERHOTか語りたい