漫画「チ。ー地球の運動についてー」を勧める3つの理由

今回は趣向を変えて、漫画の感想を語ります。

「チ。」の話をする前に当然知っておくべきこと

現代人の多くの誰もが当たり前だと知っていることも昔は疑うことさえ許されないことがありました。

地動説。

人類史が証明した事実のひとつです。コペルニクスが没前である1543年に発表した『天体の回転について』が、歴史の特異点になりました。 コペルニクスは、史上最も影響を与えた人物ベスト100ランキングでは、19位にも位置づけられるほど人類史上、重要な発表をした人でした。

ところで、今から語る「チ。」という漫画は、コペルニクスの話を書いたわけではありません。ガリレオ・ガリレイの話でもありません。あくまでフィクションですから、登場人物も架空の人物であり、また、特定の宗教もC教などと称されています。

「この漫画はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。」

流星の如く現れた漫画「チ。ー地球の運動についてー」

地動説とは「太陽を中心にして地球が円形状に公転している」という説です。それを否定する人は今でもいますが、科学的に事実です。もっとも、それを否定する人は「地球は宇宙の中心にある」ことを唱えた教えを守る信仰深い方ばかりであり、現代人でも少数派です。かといって、それをもって彼らが迫害されることはありません。

ところが、「地球は宇宙の中心である」のことを否定した"だけ"で、性格には、それに反する説を考えただけで迫害された時代がありました。

そのことを「歴史の一つ」と知っている人はいても「比喩なく天地がひっくり返るパラダイム・シフトに挑んだ人がどうなるか」ということを知っている人は多くありません。

その地動説を扱った漫画「チ。地球の運動について」が魚豊先生によってスピリッツで連載中です。

魚豊「チ。ー地球の運動についてー」 | ビッグコミックBROS.NET(ビッグコミックブロス)|小学館

この漫画は、地動説を題材にしています。同時に主役も「地動説」に違いありません。

一方、真の魅力は、それをめぐる人たちの儚く輝き消える運命を数多の星のように描いていることにあります。この漫画の「地動説」は、主役であり、それこそ登場人物が立つ地球なのです。

チ。を読んで欲しい3つの理由

チ。はチ。を巡る群像劇

ある敏く世渡り上手の少年の愚行。

第1集の表紙になっている少年は、非常に賢く敏くありました。世渡りも上手。彼ならば社会の中枢に食い込むことは誰も疑いはしません。

同時に極めて合理的な人間でした。なぜなら合理的なことは美しいから。

そして、彼は見上げる夜空にも「合理性」を感じていました。残念ながら、当時の社会性という理にはとても合理的とは言えませんでしたが。そこからこの物語は始まります。

おっと、1話の冒頭にはショッキングなシーンが含まれます。ある種の踏み絵です。この漫画を語る上で遺憾ながら重要な要素ですので、ダメならばお引取りを。

ネタバレはイヤですか? この物語の1話、2話は無料で公表されていることを加えておきます。下の小学館の公式サイトから見ることできます。

魚豊「チ。ー地球の運動についてー」 | ビッグコミックBROS.NET(ビッグコミックブロス)|小学館

ええ、中身を語る必要はありません。だから、まず読んで欲しいです。

  • 1話目を読み終わるとぐるんと世界が半回転します
  • 2話目を読み終わるとさらにもう半回転します
  • そこから見える風景はもう違う風景です

ところで、タイトルに群像劇と描きました。2話以降にも様々な人物が現れます。

そして消えます。

「教え」に歯向かわねばならない「事実」というタブーに挑む話

天動説自体は、一つの説ですから、一定の合理性があります。15世紀にはどうも不可解なことがあるにしても『細かいところを無視すれば合っている』説でした。実際それに基づいて天体観測を行えば、一定の精度が出せたとのことです。

『細かいところを無視すれば』というところに引っかかるかもしれません。でも、現代科学でもそういうことはままあります。

例えば、この宇宙には「ダークマター」という物質が存在するそうです。しかし、ダークマターという存在は「あるだろう」という域を超えていません。なぜなら、ダークマターを観測できないからです。とはいっても、そのダークマターという存在を概ね信じていい理由は、他の観測結果や計算を用いているからです。

未来の科学者が、もしかしたら、現代の科学者がそれを証明できる、かもしれません。我々は彼らの研究を待ち望んでいますし、少なくとも迫害することはありません。

「チ。」の話に戻りましょう。

この漫画は、地動説のほかに「宗教」が大きな要素を占めている。この漫画で語られるC教は世界のルールです。少なくとも舞台となるP王国では絶対です。それ故、C教の教義に反する人間は異教徒であり、反逆であり、処罰される対象です。C教が語る世界のルールは地動説ではなく、天動説でした。

「事実」は、時代によって変わります。いまだ解き明かされていない「事実」だっていかようにでもありましょう。ただ、"今"皆が皆「常識」と信じているものに反したことを唱えたとき、その人たちはどういう運命を辿るでしょうか?

2つのことを言いました。「科学」と「宗教」です。

しかし、「チ。」で語られる命題は「科学」と「宗教」を天秤にかける話ではありません。ましてや、互いにそれを否定する関係にはありません。

それは、史実でも同じです。決して現代では「科学者」とか「哲学者」とか言われる教科書上の人物は「神を否定したかった」わけではありません。むしろ、中世の科学者である彼らの多くが敬虔な信仰者だったと言っても過言ではありません。でも、彼らの多くは知ってしまったのです。

どう考えても教えに反すること。けれど、どう考えても事実であること」を。

世界に反するなんて狂気ですね。タブーと言ってもいいでしょう。

この漫画にある天秤で測られているのは「知ってしまった人間の責務」の話なのです。あまりにも重い命題を突きつけられます。しかし、彼らは異世界転生した勇者ではありません。人よりも好奇心が強く敏いだけの普通の人間なのです。

ところで、2話まで読みましたか?

魚豊「チ。ー地球の運動についてー」 | ビッグコミックBROS.NET(ビッグコミックブロス)|小学館

自己否定から始まり自己肯定で終わる宿命

登場人物は概してそこまで不幸ではありません。彼らは須らく優秀であるといっていいです。「信仰」に殉じている限り、重宝されておかしくない人間ばかりです。実際、登場当初からひどく虐げられている人間はそこまでいません。

ただ、彼らは等しく「知ってしまう」人間です。

  • 好奇心
  • 探究心
  • 富への欲求
  • たまたま

理由はそれぞれ様々です。動機はどうであれ、例外もいるがいずれも優秀な人間です。ゆえに、大なり小なり悩みます。彼らの社会的立場と天秤に図らねばなりません。「それ」を唱えてしまえば、社会的立場はおろか命まで取られる。そして「自己否定」する。

いずれの群集劇もそこから始まります。

閑話休題。

地動説なんて、馬鹿げた説だと思いませんか? この天文の中心たる地球があろうことか何かの周囲を回っているだなんて!

そういう観点に立てば「チ。」に登場する人物は醜いのです。語られている定説こそが美しいのです。誰もが信じ、賛美しています。

しかし、観測して見てみると決して美しくない遥かに合理的なことを見つけてしまうのです。

「知ってしまった」人は優秀である、と書きました。彼らはそれと同時に、もう一つ知ってしまうことがあります。

知った事実は美しい

美しさを知ってしまったとき、それを否定できましょうか? 歪つと気づいてしまった定説を肯定できましょうか?

そのまま定説に従って生きるのもよいでしょう。多くの人がそうしてきたはずです。自分の社会的立場まで捨てて何の意味がありましょう?

だから、この漫画は、それを美しく描いています。そして、醜くあることも正直に描いています。

チ。を読むためのいくつもの方法

「チ。」を読んでほしいことを書きました。なので、読む方法も書いておきます。

  • チ。はビックコミックスピリッツで連載されています
  • その他にも、Amazon Kindleなどを始めとした電子書籍ストアで配信されています
    • 第1集」「第2集」がそれぞれ600円強で販売されています
    • また、Kindleでは「単話」として1話ずつ配信されています。1話100円前後で配信されているので、連載を待っている人には安い価格です

チ。の注目度

「チ。」は発表されるやいなやネットの漫画上で多くの話題をかっさらいました。チ。を待ち望んでいる人がたくさんいます。

チ。は今年最高の漫画のひとつと評価されるかもしれません。マンガ大賞2021にもノミネートされています。

ですが、他人の評価は関係ありますか? あなたが読みたい漫画、本を読めばいいのです。あなたが「どの説」を信じるか選べるように。他のノミネートされている漫画も魅力手なものばかりですしね。

さて、天動説から地動説に世界が変わる追体験をこの漫画でできるでしょう。「チ。」を読んだあときっと価値観が変わるだろう。

それを期待して「チ。ー地球の運動についてー」を勧めます。

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